5.解析結果


  3節で示した内容をもとに、変調度特性および、入射電圧に対する位相変化量の特性を解析した。ここで、損失の違いによる変化も同時に調べたが、減衰定数の代わりにQ値を用いた。Q値は導体損によるQ値と、誘電損によるQ値を合わせた1[GHz]のときの全Q値を用い、これと減衰定数aとの関係は、マイクロ波の屈折率をnm、光波の速度をcとしたとき、
                                                       (13)
となっている。
5.1 電圧変換比のa0依存性
まず、電極にインバータを用いたときに(3)式に示される電圧変換比Tがインバータのパラメータa0によってどのように変化するかを調べた。
その結果、図7のようにa0がある値においてTはピークの値を持つことが分かる。また、(3)式における共振電極の規格化アドミタンスy1がQ値に依存するため、TもQ値によって変化する。Q値が大きいほどTのピークが大きくなっている様子が分かる。
このTの特性をスタブを用いた場合と比較すると、(1)式からも分かるとおりスタブはインピーダンス整合を満たすよう付加されているため、Q値を変化させたとしてもTの値は常に1となっている。
この結果より、インバータをTが最大となるようなa0で設計することで、スタブを用いた場合よりも給電点電圧が大きくできることが分かる。さらに、Q値の大きい超伝導体を用いることで、Tをより大きくできることが分かる。
5.2 変調度の周波数特性
次に、(11)式で表される変調度の周波数依存性を調べた。電極としてスタブを用いたインピーダンス整合回路と、インバータを用いた回路についてQ値を変化させてみた。ここで、スタブでは最適スタブ長を選んでどのQ値においてもインピーダンス整合が取れているものとしている。また、インバータを用いた場合は図7においてTが最大となるパラメータa0を使用している。
図8、図9にその結果を示す。スタブではQ値を変えるごとにインピーダンス整合が取れる周波数が異なるため、そのピーク周波数にはずれがある。
インバータ、スタブ両者においてQ値が増加する毎に変調度が大きくなっている様子が分かる。特にインバータにおいてはその増加度が大きい。
同じQ値でスタブとインバータの変調度の大きさを比べた場合、どのQ値においてもインバータの方が大きく、特にQ値が大きいほどその差は顕著である。
この結果を(11)式から考察してみると、スタブにおいては、インピーダンス整合によりT=1と、インバータより小さい値であるのに加えて、共振器の共振周波数からずれたところでインピーダンス整合をとっているため(11)式の左辺第三項の共振特性の影響が小さくなっていると考えられる。
一方、インバータにおいては、Tが最大となる周波数と、共振周波数とが一致しているため、共振特性の影響がそのまま変調度に反映されているものと考えられる。
5.3 変調度と帯域幅との関係
光変調器にマイクロ波信号を変調させる場合、光変調器の変調度は、信号の中心周波数の周りに一定の帯域幅を有していなければ変調信号の振幅波形は歪んでしまう。このため、共振型光変調器においてもその変調度の帯域幅をある程度確保する必要がある。
図10に変調度のQ値に対する振幅の最大値(Gain)と、帯域との関係を示す。ここでの帯域とは振幅のピークのでの変調度の帯域幅としている。
この結果からインバータは振幅の最大値は大きいものの、帯域はスタブより小さいことが分かる。また、どちらともQ値を大きくすると振幅は大きくなるが、帯域は小さくなっている様子が分かる。
次にこの振幅と帯域を掛け合わせたG-B積についてみた。図11にこの結果を示す。
G-B積を見ると、Q値が大きくなるにつれインバータの増分が大きくなっている。これはQ値の増加に対し帯域幅の減少が比例関係にあるの対し、変調度の増加は図9から分かるようにインバータではその増分が大きくなっていることによる。したがって、インバータにおいてはある程度の帯域をとるために、変調度を下げてもなおスタブより変調度が大きいことが予想される。変調度を下げるには(11)式の関係より、図7に示したa0パラメータをTの最大値となる値からずらせばよい。
5.4 Q値と駆動電圧との関係
図12は、位相変化量をp/2変化させるのに必要な駆動電圧とQ値との関係を(8)式の関係より求めたものである。この結果から電極としてQ値の大きい超伝導体を用い、回路にインバータを導入すれば、駆動電圧低減化を図れることが分かる。
5.5 位相ひずみと群遅延の関係
3.3項で述べたとおり、変調度の群遅延特性は変調信号波形が光信号に歪みなく重畳されるかどうかを知る上で重要となる。ここで、ある中心周波数w0の波束を変調器の入射電圧としたときの、光変調器の位相変化量の様子を数値計算により見ることにした。
まず、入力波形の周波数スペクトルV(f)と、変調度F(f)との関係についてスタブとインバータについて見てみると、図13のようになった。ただし、インバータでは、a0パラメータは最もTが大きくなる値を、スタブではインピーダンス整合を満たす最適スタブ長を設定している。これをみると、両者とも入射波形に対し十分広い帯域を有しているが、インバータのほうが変調度の大きさはスタブの約50倍あることが分かる。
さらにこの時の位相変化量を見たのが図14である。入射波形に対し、信号の立ち上がりと立ち下がりで歪んではいるものの、ほぼ等しいとみなせる。また、両者とも位相変化量の振幅は変調度の最大値倍されている様子が分かる。したがって、入力波形が変調度の分出力側で大きくなることが確認され、ここでもインバータのほうがスタブより50倍の振幅を持っている様子が分かる。
また、このときの群遅延特性も図15に併せてみてみた。遅延特性が入射電圧の帯域幅付近で一定であることが位相変化量に歪みが生じない条件であるが、インバータもスタブも中心周波数付近で0.8[ns]程度の違いしかなく、位相にはそれほど影響ないことが分かったが、スタブでは群遅延特性は非対称形になっており違いが見られた。


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