1.光変調器とは?
光通信は、低損失かつ広帯域という特性を有する光ファイバを通信媒体として用いるもので、現在では通信系の基盤技術として広く使われている。
光ファイバを用いた光通信を実現するには、基本的には電気信号をある変換回路を用いて光源の強度を変調(modulation)して光信号にする必要がある。こうした電気−光の変換を行うデバイスを光変調器という。
電気信号を光信号に変換する方法には大きく分けて2通りある。
一つは、半導体レーザ(LD)を用いて変調信号の変化をそのまま光源の強度変化にする直接変調方式であり、二つ目は半導体レーザからの出力光に対し、外部から変調を加える外部変調方式である。
半導体レーザを用いた直接変調は構成が簡単で、小型化もできるという利点を持つためこれまで広く用いられてきたが、数GHz以上の高周波になると半導体レーザの持つチャーピング(※)により、伝送速度に制限ができてしまう。一方、外部変調器は半導体レーザからの安定光に対し電気光学効果などにより変調を加えるため、チャーピングの問題がなく、高速で長距離伝送が可能である。
外部から光に対し制御を加える方法としては、電気光学効果、音響光学効果、磁気光学効果、熱光学効果、非線型光学効果などがあるが、本研究室においては電気光学結晶に電界を印加するとその屈折率が変化することを利用した、電気光学効果による方法を採用している。
※チャーピング
半導体レーザの高速変調時(数GHz以上)に、瞬時的なキャリアの変動で活性層の屈折率が変動し、光の波長が変動する(波長揺らぎ、緩和振動)現象。
電気光学効果による導波光制御では、LiNbO3(リチウムナヨベート、ニオブ酸リチウム)に代表されるような強誘電体結晶を用いる。
この種の誘電体結晶は一般にその結晶構造によって決まる光学的異方性を示す。
電気光学結晶に電界を印加するとその屈折率が変化するが、屈折率変化が印加電界に比例するポッケルス効果がしばしば利用される。LiNbO3結晶は大きい電気光学定数を有するため、光変調器の基盤としてよく利用される。
光波の周波数は10THz(テラヘルツ)にも達するため、これを有効に利用するには光の変調帯域をできるだけ広くしなければならない。このような高周波変調においては、結晶中を伝搬する光波の走行時間を考慮する必要がある。図1のような集中定数形光変調器(lumped circuit type optical modulator)においては、電極がちょうどコンデンサのような構造をとり、この中を光波が通過するため光波とマイクロ波との速度のずれが生じやすく、変調帯域には限界がある。これを避けるため、図2のように光波とマイクロ波との伝搬方向を一致させ、できるだけ両者の位相整合をとる工夫がなされたものを、進行波形光変調器(traveling-wave type optical modulator)と呼ぶ。進行波形では位相整合条件が完全に満足されれば変調帯域は無限大となるが、実際には位相ずれが起こり、これにより変調帯域が制限されることになる。
光変調器は変調周波数帯の違いから、進行波形と共振形とに分けられる。進行波形は、広帯域の変調が可能であり、すでに40GHzの変調も実用化されている。
しかし、進行波形は低電圧駆動化が課題である。これは光波とマイクロ波との速度整合、そして変調電極のインピーダンス整合によって改善可能であり、我々はこれまでにシールド板を用いて速度整合をとり、さらに超伝導電極を用いることにより、低電圧駆動化を図った。
(進行波形光変調器の開発)
一方共振形は、変調帯域幅は狭帯域になるものの、駆動電圧は進行波形に比べ、
大幅に低減が可能である。 (共振型光変調器の開発)